8月2日の書庫

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アガサ・クリスティー『葬儀を終えて』感想

 アガサ・クリスティー『葬儀を終えて』を読みました。

葬儀を終えて

 

 個人的クリスティー作品TOP5に入りそうな作品です。とにかく登場人物が多いのですが、多少わからなくても読み進めることをおすすめします。そのうち嫌でも覚えますから。

 甥とか姪とか従姉妹とか、この作品の面白さは、そうした「まったく赤の他人ではないけれど近すぎもしない」血縁関係の中で繰り広げられるミステリーだからではないかと思います。実の父親とか、実の娘だと、もっと「じっとり」するのではないか?

 人々に慕われていたとある資産家の死。親族に平等に配分される遺産。あまりに平等であることが逆に思い入れの強い親族がいないことを意味していて、なんとも後味が悪いです。

 自分が持つ資質を受け継ぎそうな有能な姪もパートナーである男には恵まれず、資産家リチャードのちょっとした失望は、しかし、杞憂だったのかもしれないなあと物語を読み終える頃には思うのでした。リチャードに烙印を押されつつも、したたかにみんな生きていくのです。

 印象的だったのは。ポアロの推理も大詰め、最後に関係者をリチャードの屋敷に集め形見分けのようなものを行うシーン。いちばん価値のある品を誰が譲り受けるかの攻防が面白かったです。あの会話の面白さ、クリスティー本当にすごいなと思いました。テンポとか歯切れの良さとか。

 どうしてこの作品が好きなのかって、多分じっくりコトコトだからだと思います。丁寧に丁寧に登場人物たちの胸中に迫り、それぞれの性質を描写していく。出てくるリチャードの親族はあまり好ましく描かれてはいないのですが、読み終える頃には愛着を抱いてしまうところが「好き!」という感じです。

 結末もびっくり。確かにそうなんですよね…よくよく考えてみれば、というオチです。