『更級日記』感想
原岡文子訳注『更級日記』を読みました。
『更級日記』と言えば、物語に憧れる地方の少女の熱量が仏に祈るほどのもの、というぐらいのイメージ。最後まで通して読むと、それだけではない、一人の女性の人生に起こる瞬間の美しさや諦観が滲む作品でした。通して読むのと読まないのとでは印象が変わるな…。
「ああ、あんな妄想に更けていないで、真面目に行いに励むべきだったわ」という晩年の後悔だけを切り取ると「夢見がちに生きるオタクどもよ、『更級日記』を読んで自戒せよ」という話になるのもわかる。ただ解説にもある通り、『更級日記』がどのタイミングで書かれたのかわからないにせよ、物語に憧れるあの頃についても瑞々しく描いているあたり、否定しているわけではなさそうである。「まあ仕方なかったわよね」ぐらいの感じか。
人生はやり直せないし、巻き戻せないということを強く感じる作品だった。
この本では「時雨の夜の思い出」とされている巻、他には「春秋のさだめ」と言われているエピソードが一番印象に残っている。季節の情景と記憶が結びつく思い出がたくさん増えたらそれは豊かな気持ちになるだろうな、なんて。