8月2日の書庫

本の感想を書くブログです。

宮部みゆき『英雄の書』感想

 宮部みゆきの『英雄の書』を読みました。

英雄の書(上) (新潮文庫)

英雄の書(下) (新潮文庫)

 

 とても好きな作品でして、定期的に読みたくなります。

 物語を綴る者の業や、「英雄」と呼ばれる存在の光と影、「英雄」を体現したくなる人間の性について読みながら考えるのでした。

(以下ネタバレ)

 

 

 

 

 

 

 

 友理子、いや、ユーリは彼女の旅の中で様々な出来事に出くわすけれど、その中でも印象に残っているのが、カタルハル僧院跡の地下深く、何重にも鉄格子をくぐった先に待ち構えているとある人物との対面です。このシーンは緊迫感が読んでいても伝わってきて、何度読んでも恐怖が薄らぐことがない。アッシュの乳兄弟であるキリクにとってのブラン師匠、友理子の兄・大樹にとっての水内一郎のように、誰かを「英雄」へと駆り立てるきっかけを作った存在がいて、これは現代にも当てはまることだなあと思います。その人自身は堕ちなくても、誰かを闇に堕とす無責任な人たちが。

 友理子が「不公平だよ!」と叫んだ気持ちもよくわかります。凄惨な事件、理不尽な出来事に見聞きするたびに、私は罪と罰について考えます。報道される事件は、決して他人事ではないのです。法とは何か、裁くとは何か、許しとは何か。答えはありませんが、考え続けたい事柄です。

 

 またいつかこの本を読み直す日が来るでしょう。いつ読んでもその度に発見がありますから。